和菓子には、最中や羊羹という種類の名前のほかに「菓銘」というものが付けられています。菓銘の多くは、短歌や俳句、花鳥風月、地域の歴史や名所に由来しています。
たとえば、秋につくられる柿の形をした煉切りに「初ちぎり」という菓銘が付けられることがあります。これは、江戸中期の俳人である加賀の千代女が詠んだ、次のような俳句から付けられた菓銘です。

渋かろか 知らねど柿の 初ちぎり

柿が渋いか甘いかは見た目ではわからない、実際に食べてみて初めてわかるということに、結婚前の不安な気持ちを重ねています。単に和菓子を召し上がって頂くことではなく、菓銘を知ることにより和菓子の趣きもぐっと深まります。
ほかにも、紅葉を表現した生菓子の「竜田」という菓銘は、昔から紅葉の名所として名高い奈良県北西部を流れる竜田川にちなんだものです。

竜田姫 雨にかよいて秋ごとに 染めわたしけん 橋のもみじ葉 (高畠式部)
ちはやぶる 神代もきかず竜田川 からくれなゐに水くくるとは (在原業平)

竜田の紅葉を詠んだ和歌や句は多く、和菓子をいただくことで、その情景にも思いを馳せることができます。
菓銘の由来を尋ねて、いにしえの文化や暮らしに触れることも、またひとつの和菓子の楽しみといえるでしょう。

菓銘とは