和菓子は五感の芸術

和菓子は五感の芸術−−−−これは、全国和菓子協会第二代会長の黒川光朝氏が提唱した言葉です。食べ物を芸術と言い切るのはいささかおこがましいかもしれませんが、和菓子の世界や個性を一言でよく表現した言葉です。
五感とは、視覚、味覚、臭覚、聴覚、触覚をいいます。
すべての食べ物に共通ですが、和菓子を前にしたとき、まず感じるのは見た目の印象です。「おいしそう」はもちろん、和菓子の場合は「桜の季節だ」などと四季のうつろいを視覚的に伝えてくれます。また、なんでもない大福や団子でも、ふっくらした餅の感じなどは、好きな人にはたまらないものです。
次に触覚です。持ち上げたときの大福の柔らかさや、楊枝を入れたときの優しい手応えなどは、口に入れる前においしさを伝えます。そして、口に含んだときの噛み心地や舌触りなども触覚です。和菓子の世界では、「口溶け」という、口の中でさらっと解けてしまうような感覚も、非常に大事にしています。餡は、そういう独特の舌触りを持っているのです。
味覚は言うまでもありません。和菓子は本来、自然の恵みの賜物ですから、素材そのものの味をどこまで引き出しているかも重要です。
臭覚は、和菓子には関係がないように思われるかもしれません。しかし、和菓子は「ほのかな香り」を持っています。米の良い香り、きなこの香ばしさなど、素材の香りもあります。加えて「移り香」があります。桜餅の葉は食べるものか否か、悩まれたことはありませんか? もちろん食べても差し支えありませんが、桜の葉をむくと、餅に独特の香りが移っていることに気がつくでしょう。餅や餡の風味と、桜の葉のほのかな移り香が絶妙な調和を生み出しているのです。移り香でほのかな香りを楽しむとは、なんと風情のある感覚でしょう。
最後に、最も関係がないように思える聴覚は、名前の響きです。和菓子の菓銘のもととなった和歌や俳句の心地良い言葉の響き、その土地にある名所旧跡などを、和菓子から感じていただくことができるのです。