和菓子の業界用語のひとつに「手形もの」という言葉があります。
「手形もの」とは、手技のみで象ってつくられる和菓子という意味ですが、補助的に小さな竹べらなどを使って自然の風物などを映し取る和菓子製造技術の華ともいわれるものです。
人の手技で和菓子をつくるということは、ある意味で絵画や書と同じように、つくり手の個性が発揮されるものです。
たとえば「もみじ」を題材とした和菓子をつくるとしましょう。
ある職人は、煉切り餡を布巾で包み、ぎゅっとひねって、抽象的ではあるが力強く訴えかけてくるもみじをつくります。また、ある職人は、葉脈ひとつひとつまで表現したような、繊細なもみじをつくります。どちらが正当ということではなく、この表現の差が個性なのです。
和菓子職人は、自然の風物などを、自分の感性で感じとり、和菓子に表現するのですから、当然、つくられる和菓子は、つくり手の個性が込められているものです。
同じ菓銘でも、店によって違う風情、違う味わいのものが並ぶわけですから、好みに合わせて選ぶことができます。違いを探して和菓子店を訪ね歩くことも、そして一軒のなじみの店に通い続けて小さな発見を重ねていくことも、いずれ劣らぬ和菓子の楽しみ方です。

手作りの技
手作りの技